多胡さんが発見した謎の増光天体のスペクトル

 岡山県津山市の新天体捜索家・多胡昭彦(たごあきひこ)さんが、2006年10月30日に自宅の観測所の赤道儀に取り付けたデジタルカメラで撮影したカシオペア座付近の画像から、いつもは11.8等級の星が8.8等級まで増光しているのを発見しました。多胡さんの観測では、10月下旬から徐々に増光し始め10月31日には7.5等級まで増光したようです。

 2006年11月1日に確認のため、美星天文台でこの天体の分光観測をしたところ、新星特有の水素の輝線スペクトルが見られず。織り姫星として有名なこと座のベガと同じような、ごく普通の白い星のスペクトルを示しました。こうした星は、安定しており、急に4等級も増光することは通常ありません。その後、減光途中に行われた分光観測でもスペクトルに変化は見られませんでした。

 安定した星のスペクトルを示し、スペクトルの変化がないにもかかわらず、これほどの増光を示したことから、この増光現象は「マイクロレンズ現象」ではないかと考えられています。「マイクロレンズ現象」とは、私たちと星の間に見えない天体がたまたま通りかかり、その見えない天体の重力がレンズの役割をして背景の星を増光させる現象です。マイクロレンズ現象では、星の明るさを増光させるだけで色の変化、つまりスペクトルに変化はほとんど起きません。

 マイクロレンズ現象は、プロの天文学者によって星が密集したマゼラン雲や銀河中心の方向をターゲットに探査されてきましたが、これほど明るい現象をアマチュア天文家が見つけたのは世界でも初めてのことです。


上のグラフが、多胡さんが発見した天体のスペクトルです。美星天文台の101cm望遠鏡の分光器で2006年11月1日に観測しました。比較のために下にこと座のベガ(織り姫星)のスペクトルを示します。多胡さんが発見した天体は、一見してベガのような普通の白い星としか見えません。これは新星のスペクトルとは全く異なります。
※グラフの縦軸は、相対的な光の強度を示しており、絶対的な明るさを表しているわけではありません。ここではスペクトルの形に注目して下さい。

美星天文台101cm望遠鏡にデジタルカメラを取り付けて2006年11月7日に撮影した画像です。矢印で示した星が、多胡さんが発見した増光天体です。

【参考リンク】
 VSOLJ ニュース (162) 多胡さん発見の変光星はマイクロレンズ現象?
 国立天文台 アストロ・トピックス(257):多胡さん発見の変光星はマイクロレンズ現象?
 アストロアーツ天文ニュース(11月16日):多胡さん発見の変光星はマイクロレンズ現象?


[2006.11.19掲載]




Copyright(C) Bisei Astronomical Observatory All Rights Reserved.