[掲載:2002.10.8]
ガンマ線バーストGRB021004の初期観測に成功

(撮影機材と時刻)
美星天文台 101cm望遠鏡
CCDカメラ 武藤CV-16IIE
フィルター R-band
時刻 2002.10.04 14:55 (UT)

 2002年10月4日に21時6分(日本標準時)にHETE2衛星によってガンマ線バーストが検出されました。

 HETE2衛星により決定されたガンマ線バーストの位置は、発生から50秒後にはインターネットで全世界へ配信されました。美星天文台でも、この位置情報をもとにガンマ線バーストが起きてから約2時間後に観測を開始し、ガンマ線バーストの残光の初期の姿を捕らえることに成功しました。

 今回のガンマ線バースト(GRB021004)は、日本からの観測条件が良好で、京都大学、東京大学木曽観測所、美星天文台が初期の観測に成功しています。ガンマ線バーストの残光は、時間とともに急速に暗くなってゆきますが、その初期の減光の様子を詳しく観測できたのは今回が初めてです。

 日本につづき、インド、ヨーロッパ、アメリカと、駅伝のたすきをつなぐように観測が継続され、世界中の観測結果を総合すると、これまでにないほど克明に減光の様子を捕らえたことになります。この減光の様子からガンマ線バースト発生のメカニズムを探る貴重な手がかりを得ることができるでしょう。

 その後の分光観測により、このガンマ線バーストの赤方偏移Zは、 Z>1.6ということがわかりました。つまり約66億光年より遠くの宇宙で起こっている現象ということになります(ハッブル定数を75km/s/Mpcとし宇宙が平坦であると仮定して次の式で求めた(3.26×10^6)(2/3) (c/Ho) (1-(1+z)^(-3/2))[ly])。

ガンマ線バーストとその残光

 ガンマ線バーストは、1960年代末から1970年代初頭にかけてアメリカの核実験監視衛星Velaによって偶然発見された一日に約一回ガンマ線が宇宙のある方向から降り注ぐ現象です。

 ガンマ線はX線よりエネルギーの高い電磁波で、ガンマ線バーストが発見された当初その現象が太陽系の中で起きているのか、銀河系の中なのか、はたまた宇宙の果ての現象なのか、全くわかりませんでした。その理由は、ガンマ線バーストが短時間で終わってしまい、加えてガンマ線の検出器はガンマ線が飛んできた方向を正確に決めることができなかったため、どの天体がガンマ線を放射しているのかわからなかったからです。

 こうした状況を一変させたのが、1997年にBeppoSAX衛星によって発見されたX線残光、続いて発見された可視光残光です。これまで数秒間で終わってしまうと思われていたガンマ線バーストに、バースト後しばらく見えている残光が発見されたのです。

 この発見により、残光が減光する様子からガンマ線バーストの理論的な研究が進んだり、地上の大型望遠鏡で残光を分光観測することで、ガンマ線バーストが宇宙初期の銀河で起こっている大爆発であることがわかってきました。しかし、いまだ観測例が少ないため何がこの大爆発を引き起こしているのか、全く解明されていません。

HETE2衛星(高エネルギートランジェント天体探査機) 公式ホームページはこちら

 HETE2衛星は日本の理化学研究所とアメリカ、フランスが共同開発し、2000年10月に打ち上げられた小型の人工衛星です。この衛星は小さいながらこれまでにはない先進的な工夫がされています。

 HETE2衛星は、反太陽方向の60度角の視野を常に監視しています。そして、監視領域の中でガンマ線バーストが起こると、数分角〜1度角の精度で位置が決定され、その位置を数分以内にインターネットで全世界に配信します。HETE2以前の衛星では、位置が決定するまで数時間から数日かかっていました。

 残光は、時間が経つにつれ急速に暗くなってゆくので、なるべく早く望遠鏡を向けないと見えなくなってしまいます。美星天文台の観測も、HETE2衛星がもたらした迅速な位置情報をもとに行われたものなのです。