銀河のほとりに (30)

小暮智一(こぐれともかず・美星天文台長)


国連と宇宙科学

美星スターウオッチングクラブ会報「星見だより」1996年4月号

 国際連合には宇宙局(Office for Outer Space Affairs)という機関があり、 局長のジャセントリヤーナ氏はスリランカ出身です。 この宇宙局はおもに宇宙利用に関する国際的とり決めを扱う機関ですが、 同時に宇宙科学が先進国の独占にならないよう、先進国と途上国をつなぐ連絡や、 協力推進の母体にもなっています。 そのため、1990年から年に1回程度の頻度で関連したテーマでワークショップを開くようになり、 1995年度はスリランカのコロンボで開催されました。

 今回のワークショップはESA(欧州宇宙機構)との共催で、 テーマは「小型望遠鏡からスペース・ミッションまで」という幅広いものでした。 世界中から招待された参加者は途上国を中心に約50人、 したがって、話の中身もスペースよりも小型望遠鏡や天文教育、 天文普及といった身近な問題に重点がありました。 日本からは宇宙科学研究所の秋葉鐐二郎所長が日本のスペース活動の現状、 国立天文台の北村正利名誉教授が日本の天文関係の対外援助の現状を報告されたのにたいし、 私は日本の公共天文台における天体観測の概要を報告しました。

[Workshop 42KB]ワークショップ開会式風景

 夜のセッションは「スリランカの天文観測をどうすすめるか」とか、 「発展途上国の天文、宇宙科学の発展のために国連は何ができるか」 などの問題についての自由討論があり、先進国に対するいろいろな注文がでてきました。 そんななかで日本の公共天文台の役割は大きく評価され、 最後のまとめでも、世界中に観測能力を持った小型望遠鏡を設置しよう、 といったスローガンまで提案されるほどでした。

 天文学や宇宙科学の普及は発展途上国でも急速に進んでいて、 各地でのとりくみの報告も印象的でした。 この会議をとおして世界の国々をひとつに結び、 21世紀に向けて国際的な協力体制を築くうえで 天文学が大きな役割をもっていること知って感銘をうけました。 天文学は大事な平和の使者といえるでしょう。

[Dance 56KB] レセプションでのスリランカ古典ダンス


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Kazuya Ayani, Bisei Astronomical Observatory / ayani@bao.go.jp