銀河のほとりに (43)

小暮智一 (こぐれともかず・美星天文台長)


ドイツ科学史の旅 (その6:ミュンヘン)

美星スターウオッチングクラブ会報「星見だより」1997年5月26日号

9月下旬のミュンヘンはちょうどワイン祭り(オクトーバー・フェスト)が始まったところでした. 街の中心マリエン広場は着飾った地元の人から観光客まで、大勢の人であふれています. 中央駅近くのホテルに落ち着いた私たちは、さっそくマリエン広場に出かけ,大道芸人のパーフォーマンスや市庁舎の大きな人形仕掛け時計などを見てひとときを過ごしました. そのあと,ヨゼフ・フォン・フラウンホーフェルの足跡を訪ねて市立博物館とドイツ博物館を訪ねました. やや違った観点からですが,どちらの博物館もフラウンホーフェルを大きなテーマとして扱っておりました.

フラウンホーフェル(1787-1826)はバイエルンでガラス職人の子供として生まれ,ミュンヘンのガラス工場で働きながら望遠鏡やプリズムの製作と研究を続けて,後にはミュンヘン大学の教授になりました. 太陽の光を分光器を通して7色の虹に分けたのは17世紀のニュートンでしたがフラウンホーフェルは,1814年に自作のプリズム分光器で太陽スペクトルに500本あまりの暗線(吸収線)を発見しました. 彼はそれぞれの暗線の波長を測定するとともに,強い線にはA,B…などの名前を付け,また,星のスペクトルにも暗線を見付けています. 太陽に暗線を発見したのは試作したプリズムをテスト中の偶然のことだったといいます. これが太陽分光の第一歩となりました.

マリエン広場に近い市立博物館では「写真術の発展」という部門の一室にフラウンホーフェルの仕事場を再現したコーナーがありました. 彼の製作した小型望遠鏡やプリズムなどが工作機械と並んで雑然とおかれ,当時のままの姿に再現されているようです. このコーナーの脇には彼のデスマスクが飾られ,若くして夭折した青年の静かな容貌がありました.

[JPEG 14KB] ドイツ博物館入口

一方,ドイツ博物館はイザール河の中州に建つ大きな建物です. そのコレクションも膨大で,天文部門だけを見るにも丸1日はかかりそうです. 広い展示室には19世紀の古い望遠鏡や観測機器も多数展示されています. その中でフラウンホーフェルは望遠鏡製作者として一部屋を占めており,ヨハン・G・ガレが海王星を発見したときに使ったというフラウンホーフェル製作の屈折望遠鏡が大きな場所を占めていました. 本館の屋上と別館にはプラネタリウムがあり,この博物館が天文の普及にも大きな役割を果たしている様子がうかがわれました.

[JPEG 11KB] 海王星発見に使われたフラウンホーフェル製作の望遠鏡


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Kazuya Ayani, Bisei Astronomical Observatory / ayani@bao.go.jp