銀河のほとりに (44)

小暮智一 (こぐれともかず・美星天文台長)


ドイツ科学史の旅 (その7: 人類の祖先)

美星スターウオッチングクラブ会報「星見だより」1997年8月1日号

このたびのドイツの旅ではいくつかの市立博物館を訪ねました. どの博物館でもその土地の考古学的発見から中世,近代に至る歴史的過程が一目で分かるように,資料と解説がうまく展示されているのに強い印象を受けました. 例えば石器時代の風景を背景に小屋の内部を示す模型や大人や子供たちの人形が周囲に溶け込んだパノラマとして飾られていたり,中世の館の模型に当時の風俗の人々の人形が添えられていたり,また,橋を渡る軍隊の行進には1000体もの小さい人形が並んでいたりというように,展示にいろいろと工夫が凝らされています. しかし,なかでも印象に残ったのはボンとハイデルベルクで人類の祖先にお目にかかったときでした.

[JPEG 13KB]ライン地方博物館玄関

ボンではイタリアのトリノから来たピエロ・カラチ博士と地下鉄の駅で偶然顔を合わせ,一緒にボン中央駅に近いライン地方博物館を訪ねました. 博士は太陽専門ですが,ラテン語に詳しいので古文書などの説明や,イタリアとの比較などに話が尽きず,またとないガイドとなってくれました. 2人の目的はもちろんネアンデルタール人です. 考古展示室のガラスケースに収まった頭蓋骨は,額部分の張り出しが特徴ですが,頭頂がずいぶん広がっているような感じを受けました. 今から約5万年前にライン地方のネアンデルタール峡谷にすんでいたという古代人の生活風景もパネルに飾られ興味をそそります. 最近の研究によると,ネアンデルタール人はかなり自由に言語を繰り,十分な仲間のコミュニケーションがあったということです.

ハイデルベルクのプファルツ選帝侯博物館はメインストリートに面した煉瓦立てのビルが入口です. 美しい庭園を抜けるとバロック式豪邸が建ち,それが博物館となっています. 広い地下が考古学部門に当てられ,そこに目指すハイデルベルク人の下顎骨(複製)が展示されていました. 1907年にハイデルベルク近郊の砂利採掘場で発見され,翌年,ホモ・ハイデルベルゲンシスと名付けられましたが,この原人はヨーロッパで最も古く約55万年前に住んでいたと考えられています. 展示室にはこの原人を源流とする人類進化の道筋が幾多の発掘品とともにわかりやすく示されています.[JPEG 28KB]
プファルツ選帝侯博物館への道(右側のレストランでドイツ料理を満喫)

また,ウルム市の市立博物館も考古学部門が充実し,気球や衛星探査で発見されたというヨーロッパ各地の遺跡の分布図にはすっかり驚き,あらためてヨーロッパの遙かな歴史の流れに思いを馳せたことでした.


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Kazuya Ayani, Bisei Astronomical Observatory / ayani@bao.go.jp