イラクの首都バグダードから約80キロ,ナツメヤシの林を縫って南に向かうと砂漠の中からバビロンの遺跡が現れてきます. ライオンや不思議な動物の浮き彫りに飾られたイシュタル門を通ると,そこは石造りの建物跡や石ころの広がる廃墟の空間です. 古都バビロンの繁栄はどこへ行ったのでしょう. 3500年前,この地は王都として栄え,町の中心に壮麗なパンテオン(万神殿)が建っていました. その主神はメソポタミア神話の英雄マルドゥクです.
バビロンのイシュタル門
王宮跡
宇宙創世のカオスを支配した3神アヌ(天界),エア(大地),そしてエンリル(空気)はたくさんの神々を生みましたが,エアから生まれた勇猛なマルドゥクは諸神との戦いに勝利して神々の王となり,バビロンでは“カオスの世界"から“秩序ある世界"を築き上げた創造神として信仰を集めました. 一方,アヌの娘イシュタルは愛と性的魅力と勇猛さを兼ね備えた女神として,その信仰は西アジア全域に広がっていますが,ここバビロンではパンテオンの守護神としてイシュタル門に祭られています.
メソポタミアで生まれた黄道十二宮の星座は今では私たちに親しいものですが,王都バビロンの頃はまだ形が整っていませんでした. 全天は星ぼしの動きに沿って3つに分けられ,黄道に沿う中天はアヌ,北天はエンリル,南天はエアと,それぞれの神の座となっていました. 黄道十二宮は後になってこの中天のなかにうまれたのです.
私もイラク宇宙科学研究所の招待でバグダードを訪ねた折りに,招待された一行ととものバビロンを訪ねましたが,もう10数年も前の話です. 最近,遺跡を復元しようという動きもあるようですが,どうなっているのでしょうか. バビロンは今でも夢の跡のように思い出されます.