分光観測マニュアル

第1版(1997年8月7日)
第1.1版(1997年8月18日)


目次

  1. 観測の大まかな流れ
  2. 観測前
    2-1.  観測準備
    2-2.  CCDカメラ
    2-2-1. AstroCam 分光用CCDカメラ
    2-2-2. ST-6(ガイド用)
    2-3.  分光器
    2-4.  CCDカメラのテスト
  3. 観測
    3-1.  CCD分光観測の概略
    3-2.  観測野帳の記入
    3-3.  天体の導入
    3-4.  バイアスフレーム
    3-5.  コンパリソンライン
    3-6.  オブジェクトフレーム、標準星フレーム
    3-7.  フラットフレーム
  4. 観測後
    4-1. あとかたづけ
    4-2. データのバックアップ



  1. 観測の大まかな流れ

    ・ドーム内での準備(窓、エアコン)
    ・望遠鏡、CCD、分光器の電源を入れる
    ・CCDの冷却
    ・各制御プログラムの起動
    ・望遠鏡、CCD、分光器の調整(フォーカス、カメラの回転角)
    ・天体の導入
    ・観測(バイアス、コンパリソンライン、オブジェクト、フラット)
    ・あとかたづけ(制御プログラム、電源、ドーム内)
    ・データのバックアップ


  2. 観測前

    2-1. 観測準備

    望遠鏡の電源を入れ、関連装置の電源を入れる(制御卓のメイン電源、制御室内の DELL OptiPlex GXM 5166、PC-9821Ap2、及びその下にあるファンクションジェネレータ、パワーアンプの電源)。
    22時までは、望遠鏡の夜間一般公開があるので、22時以降に一般客が帰り次第、観測準備を始める。
    晴れている場合は、ドームスリットを開け、ドーム内のコンディションを安定させておく。観測開始前にエアコンは切っておく。

    2-2. CCDカメラ

    2-2-1. AstroCam 分光用CCDカメラ

    真空引きなどでカメラが望遠鏡に付けられていない場合は、フォールデッドカセグレンS焦点に、AstroCam の分光用CCDカメラを取り付ける(高分散の場合は西側、低分散の場合は東側の焦点を使用)。
    固定したのち、コネクタキャップをはずし、コネクタケーブルを接続する(静電気対策として、必ず事前に手近の金属部分に触れておく)。接続後、カメラの電源を入れる。その後、CCDに液体窒素を注入する。
    冷却開始時刻を観測野帳に記入する。温度が安定するまでに約2時間必要になる。
    また迷光避けのシールをCCDカメラと分光器の接合部に貼り、曇り止めの送風装置(CCレモンのペットボトル)を取り付ける。

    制御室のカメラコントローラ用のパソコン(Astromed)を起動(ブートマネージャから、Windows95 を選択)し、Imager2 を立ち上げる。転送エラーについては、カメラと望遠鏡とを絶縁させることによって劇的に改善されるので、確認しておくとよい。
    Imager2 が起動したら、メニューバーの "Camera" から "Acquire image..." を選択する。メインウィンドウの下に "Acquire image" ウィンドウが現れる。
    1番下に並んでいるボタンの中の "Setup..." をクリックすると、右上に "Camera setup" ウィンドウが現れる。その中の "Camera configuration" で "CCD type" を設定する。AstroCam の分光用CCDの場合は、"CCD15-11" を選択する。これは非デフォルト値なので、変更を忘れないようにする。また同ウィンドウ内で、"Sensitivity" を "max" に、"Readout rate" を "minimum" に、"Pre-flush" を"3" にそれぞれ設定する。
    しかる後に "Initialize" を実行する。すると最初のメインウィンドウにイニシャライズの状態が表示される。イニシャライズの実行直後は、バイアスイメージが変になるので、しばらく待つ必要がある。
    また "Advanced" から"Reoptimization(最適化)"の"auto"のチェックをはずしておくと、観測中に Reoptimaze を促すメッセージが出なくなるので、チェックしておくとよい(デフォルトでは20分に1回出てくる)。ただし、Reoptimize は、観測のはじめバイアスフレームをとる前に行う。原則としてReoptimize をしたらバイアスフレームを撮り直さなければならない。

    "Aquire image" ウィンドウ右下に "Temperature" が表示できるので、温度の状態を確認する。また観測に先立ち、イメージのビンニングを設定するときは、"Binning" の箇所に縦横のビンニング数を入力する。
    露出時間は、同ウィンドウ内の "Exposure time" で設定する。時間の単位を変えることができる。"Enable shutter" のチェックをはずすとシャッターは開かないので、バイアスフレームを取得するときは、チェックを外す。その他のフレームを取得するときは、チェックすることを忘れないようにする(チェックしないで露出をかけると、その時間が全て無駄になる)。

    ファイルのセーブは、最初のウィンドウの "save" メニューで行うが、"Aquire image" の "Destination" の設定を行うことによって、自動的に通し番号でセーブしてゆくことができる。
    AstroCam のデータをセーブする場所は "c:\data" のディレクトリで、その下に日付のディレクトリを作成し、セーブする。
    ファイル名は、低分散モードでは "l??"、高分散モードの場合は "h??"(??はその
    日の通し番号で、次の日はまた 01 から始める)とする。

    2-2-2. ST-6(ガイド用)

    露出中のガイド用に、ST-6 を使用する。望遠鏡に取り付けている本体の電源を入れ(メイン及び ST-6)、制御室内の DELL側の Windows95 から ST-6 のショートカットをダブルクリックして制御プログラムを起動する。
    起動したのち、カメラの冷却を開始する(-20 'C くらいまで)。

    2-3. 分光器

    制御室の PC-9821Ap を起動し、分光器制御用プログラム(spgops1)を立ち上げる。
    DOSのプログラムなので、一旦MS-DOSモードでパソコンを再起動したのち b:\bunkouki に移動し、spgops1.exe を手動で実行するのが無難。DOSベースのGUI画面が現れるので、中心波長を入力し、スリット幅、フィルタを選択する。
    項目の移動には、TABキーを使用する。TAB+SHIFTで項目を後戻りできる。

    2-4. CCDカメラのテスト

    第3鏡を移動し、観望用焦点から分光器の方へ光を導入する。
    制御卓で「第3鏡」を押しながら「閉」で(45度の位置へ)、「第3鏡」を押しながら
    「F6」を押すことによって分光器が使用できるようになる。
    観測を開始する前に、分光器のフォーカス及びCCDカメラの回転角を修正する。
    フォーカスは、コンパリソンライン(波長較正用比較光源の輝線スペクトル)をハルトマンシャッターを使用して取得し決定するが、実際は、前回の観測時の値を野帳から引用すると、だいたい合っている。
    また ST-6 のフォーカスモードの画面でも修正できる。回転角は、コンパリソンラインの傾きを観察し、カメラの位置を微調整する。


  3. 観測

    3-1. CCD分光観測の概略

    CCD分光観測においては、目的天体のスペクトルの他に、バイアス、フラット、コンパリソンライン、フラックス標準星のスペクトルを取得する必要がある。
    どのような順番で取得してゆくかは、観測者の観測計画により異なるが、典型的には、最初にバイアスを数枚取得したのち、コンパリソンラインを撮り、続いてオブジェクト(観測目的天体)の観測に入る。1枚のオブジェクトフレームに対し、対応する少なくとも1枚のコンパリソンラインを取得する必要がある。
    フラックス標準星の取り方は、観測計画によってまちまちである。高分散分光でラインの視線速度変動を測定する場合など、必ずしも取得を必要としない場合もある。
    取得する場合は、なるべく目的天体のフレームを取得した時と同じくらいの地平高度になる時点で取得するように、事前に計画する。
    フラットフレームは観測終了後の最後でよい(薄明が始まっても問題ないため)。
    バイアスフレームはできるだけ頻繁に取得する。

    3-2. 観測野帳の記入

    観測時の様々な記録を観測野帳に必ず記入する。
    野帳には、観測日、観測者、使用CCDの種類(AstroCam 分光用)、分散モード、中心波長、フォーカス値、気温、湿度、気圧などを記入する。また観測前にテストを行ったり、なにかエラーが起きた場合はその内容を記録しておく。
    観測記録は、フレーム名(または天体名)、露出開始時刻(JST)、露出時間、中心波長、CCDの温度、セーブ先のファイル名を、1フレームに対して一行に記録する。
    青域カットのフィルタ(2番)を使用する場合は、その点も記入しておく。

    3-3. 天体の導入

    制御室の DELL (Windows95) の 101cm望遠鏡制御プログラムの "tc43" を起動する。
    目的天体が、たとえば "the Bright Star Catalog" に記載されているような有名な天体ならば、メニューバーの "恒星" から恒星名で導入することができる。
    また、その他の天体は、あらかじめ赤道座標とその分点を調べておいて、データファイルを作成することにより、メニューバーの "ユーザー" から自動で導入することができる。
    導入精度は良いが、暗い天体などでは、あらかじめファインディングチャートを準備しておくほうがよい。
    望遠鏡の制限から、地平高度15度以下の天体は導入できない。

    ST-6 を導入・追尾ガイド用に使用するには、連続露出をかけて連続表示させるフォーカスモードを使用する。
    DELL (Windows95) の "ST6" の制御プログラムのメニューバーの "Camera" メニューから、"Focus" を選択し、露出時間を入力しリターンキーをたたくと、星野が表示される。天体の明るさに対して露出時間が長すぎると、飽和して画像が見にくくなるので注意する。
    画像のなかで目的の天体を探し、その領域とスリットを含める範囲を選択して"located" を選択することによって、部分表示が開始される。領域の大きさは、最小の大きさで充分である。
    制御室のハンドセットで位置を調整し、天体像をスリット像(ピクセル上およそ Y=123 付近)の上に乗せたら導入完了である。
    途中雲がかかったりすると、ST-6 の画面から星が消える。観測中は、常時天候を確認することが励行される。

    観測途中で別の天体を導入するときは、再び "tc43" のメニューを使用して導入するが、このとき DELL 上で "tc43" と "ST-6" を切り替えることになる。この場合、"ST-6" を、連続露出させたままで Windows95 のカレントジョブを "tc43" の方へ切り替えると "ST-6" がハングアップしてしまうので、切り替える前に必ず "ST-6" の露出を止めておく。露出を止めたら、ALT+リターンで"ST-6" がフルスクリーン表示からウィンドウ内表示にサイズ変更されるので、"tc43" をカレントに切り替える。

    3-4. バイアスフレーム

    CCDチップには、ピクセルの読み出し値がマイナスになるのを避けるため、最初からある程度のカウントが加算されるようになっている。
    データ解析時にこれを取り除くため、0秒露出で得られるバイアスフレームを取得する。
    "Enable shutter" のチェックをはずし、"Exposure time" を0秒に設定して"Grab" すれば取得できる。正常なカウントはおよそ 250 程度になる。

    3-5. コンパリソンライン

    分光器制御制画面で Fe-Ne を押すことによって、自動的に比較光源がCCDへ向けられる。
    ST-6 の連続露出画面で比較光源に向いたか確認したのち、"Enable shutter" をチェックし、露出する。低分散の場合は、露出時間は1秒程度でよい。

    3-6. オブジェクトフレーム、標準星フレーム

    コンパリソンラインの直後に取得するので、光源を比較光源から天体に向け直すのを忘れないようにする。また、全ランプをOFFにする。
    ST-6 の画面で天体がスリット上に乗るのを確認したのち、露出を開始する。
    ST-6 の画面から天体が見えなくった場合は、天候を確認する。
    露出時間は目的天体の明るさによって異なるが、万一転送エラーが起こった時に(いろいろな意味での)ダメージを最小限にするため、最大20分程度に押さえておくほうがよい。しかし最近は転送エラーがかなり改善されたので、この限りではないかもしれない。
    露出を開始したらその直後に、制御卓の「表示切」を押し、制御卓のランプを消す。これはドーム内の制御卓の光が観測の邪魔になるためである。
    露出中は、制御室内で ST-6 のガイド画面を見ながら、天体のイメージがスリットから逃げないように、ハンドセットを使って追尾の微調整を行う。およそ1分周期で東西方向に揺れているようなので、早めにこつをつかんで光量のロスを最小限に押さえたい。

    3-7. フラットフレーム

    CCDチップの感度ムラを補正するために、一様な散乱光を取得する。
    ドームスリットを閉じ、ドームスリットに向けて白熱ランプ光を当て、フラットイメージを作る。"Enable shutter" チェックを確認後露出する。
    迷光の問題がまだ完全には解決していないようなので、その点を事前にスタッフに問い合わせておいたほうがよい。迷光が入ってしまった場合は、波長非依存の光がCCDに当たり、定量的な解析ができなくなるので、事前にその可能性を取り除いておく必要がある。


  4. 観測後

    4-1. あとかたづけ

    観測が終了したら望遠鏡及び観測装置をかたづける。AstroCam も ST-6 も、本体の電源を切る前に、必ず制御プログラムを先に終了する。
    チェックする箇所は、AstroCam は電源、コネクタ、通信ケーブルを確認し、ST-6 は本体の電源と主電源が切れたかどうか確認する。
    望遠鏡は、"tc43" の "環境" メニューから "ドーム+望遠鏡" で、"クローズ" を選択すると、ドームスリットと望遠鏡の蓋が閉じる。その後同じ "環境" メニューの"望遠鏡" で "天頂" を選択すると、望遠鏡が天頂の位置に移動後固定され、恒星時追尾も自動的に止まる。その後望遠鏡の制御プログラムを終了し、パソコン等の電源を切る(DELL、PC-9821Ap2、その下の電源装置、PC-9821Ap)。
    ドーム内の床を下げ、液体窒素のタンクを片づけておく。またドーム内の窓を閉め、切っておいたエアコンを入れる。

    4-2. データのバックアップ

    c:\data のその日のディレクトリからMO、ZIP、またはDATに自分の分をバックアップする。天文台用のバックアップはスタッフが行うので、必要無い。
    その後、CCD制御用のパソコンの電源を切れば、観測は終了である。
    観測野帳のコピーをお願いして、持ち帰ることも忘れないようにする。



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Tetsuya Kawabata, Bisei Astronomical Observatory / kawabata@bao.go.jp