冷たいダークマター(CDM)

ニュートリノ以外の素粒子的なダークマターの候補は,まだ実験で存在を確かめられていない.理論モデルで考え出された素粒子の中で,ダークマターの候補となり得るものを探っているのが現状である.その粒子の速度分散(速度の2乗平均値)がほとんど無視できるものが,冷たいダークマターと呼ばれる.

アクシオンと呼ばれる粒子は,冷たいダークマターの候補の1つである.原子核を結び付けている核力をつかさどる「強い相互作用」の理論は,空間反転(鏡の中の世界)と粒子・反粒子を入れ換える変換を同時に行う変換に対して不変であることが,実験で知られている.しかし理論的には,この不変性を破る効果が示されているので,この破れを避けるために,「強い相互作用」に或る種類の対称性があると仮定する.すると,アクシオン粒子の存在が理論的に導かれる.アクシオンを見つけようという試みはいくつかあるのだが,まだ痕跡も得られていない.

超対称性粒子と呼ばれる粒子たちも,冷たいダークマターの候補である.粒子の性質を表すものの1つにスピンという量がある.粒子は,スピンが整数のボーズ粒子と,半整数(2分の1,など)のフェルミ粒子 の2種類に分類できる.ボーズ粒子とフェルミ粒子を混ぜ合わせる「超対称性変換」と呼ばれる変換に対して,世の中の物理法則が不変だと仮定すると,すべての素粒子たちに対して,超対称性粒子たちが存在することが理論的に美しく導かれるが,これらの超対称性粒子たちはまだ1つも見つかっていない.(見つけるためには,非常に大きな高エネルギー実験施設の建設が必要だが,計画の中心となっていたアメリカの予算が数年前に打ち切りになってしまった.)

冷たいダークマターの候補は,理論的に他にもいろいろ可能性がある.

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参考文献

須藤 靖,「パリティ物理学コース ダークマターと銀河宇宙」, 丸善