Composite 使い方マニュアル
目次
はじめに
Compositeは美星天文台で開発された、webブラウザで駆動する天体画像一次処理ソフトです。画像データの取扱いには、 Harvard and Smithsonianで開発された「JS9」を利用しています。
使用環境
ブラウザは Firefox(ver. 135), Google Chrome(ver. 133), Microsoft Edge(ver. 133)で動作を確認していますが、JavascriptとFile APIの動く環境であれば、動作します。
天体画像の一次処理について
ダーク画像
ダーク画像とは、望遠鏡やカメラに蓋をして、真っ暗な状態で取得した画像のことです。
CCDカメラから出力される画像には、天体からの光を受光して生じる電荷信号のほかに、
カメラ内部で発生する電荷信号(熱雑音など)が含まれています。
このカメラ内部で生じる信号を取り除くために使用するデータがダーク画像となります。
生じる電荷信号としては、半導体素子内で発生する熱的な電子(暗電流)の他に、伝送経路で回路や
外部電波などから生じる読み出しノイズなどがあります。また、回路上では意図的に電荷を追加して
読み出しを行います。これをバイアス電荷などと読んだりします。
望遠鏡・カメラへ蓋をして撮像することにより、これらの電荷の値のみを取得する目的で取得する画像が
ダーク画像となります。
暗電流は、半導体素子の温度に依存し、高温なほど増えます。また、露出時間に正比例して
出力されるため、長い時間の露光であるほど、熱雑音の電荷も増えていきます。
このため、ダーク画像を取得する際は、なるべく天体画像と同じ温度、露出時間、カメラセットアップ(感度など)で
撮影を行います。
ただし、十分に冷却されたカメラ(-800度などの場合、暗電流が極めて小さく、バイアス電荷のみの差引で
実用十分な場合もあります。この場合は、同じ温度で露出時間を0秒で撮影したバイアス画像をダーク画像と
して使用することもあります。
いずれにせよ、出力される電荷にもショットノイズ(統計的な揺らぎ)がありますので、
複数枚(通常5-10枚のことが多い)の取得を行い、平均化(コンポジット)して使用することが望ましいです。
ダーク補正では、天体画像からダーク画像の差引を行います。
フラット画像
望遠鏡やカメラレンズを通して取得した天体画像では、画像周辺で光量が少なくなる周辺減光や、
レンズ・フィルター・CCDカメラ素子上のちりや埃などの影響による減光、また、CCD素子ごとの受光感度のばらつきが
存在します。
これらの感度ムラを補正するために取得する画像が、フラット画像になります。
フラット画像取得では、望遠鏡を一様な光源(ドーム内壁)に向けて撮影し、本来一様であるはずの取得画像がどれだけ
減光の影響を受けているか取得することができます。
フラット画像を取得する際は、フィルターなどの光学系は天体画像撮影時と同じにし、
露出時間は適宜調整して統計的に十分なカウント値が得られるよう取得を行います。
また、フラット画像にもバイアス・ダークは含まれますので、これも差し引いて補正を行います。
最終的には、天体画像からフラット画像を割り算することによって、感度ムラを補正します。
コンポジット
天体は非常に暗く、長時間露光を行うことによって淡い光を集めます。実際の観測では、
様々な要因(望遠鏡の追尾精度やCCDのダイナミックレンジなど)によって、露出を複数枚
に分割して実施する場合があります。これらの分割した露出を足し合わせ平均することを
コンポジットと呼んでいます。
長時間露光の場合、宇宙線などの影響によって天体以外の信号が紛れ込んでしまう場合がありますが、
複数枚画像の平均値とその分散を調べることによって、これらの異常値を除外できる場合があります。
この分散値から外れ値を除外してコンポジットを行う方法をσ(シグマ)クリッピングと呼んでいます。
3-σクリップという場合は平均値から標準偏差の3倍以上離れたデータを外れ値とみなして除外します。
WCS (World Coordinate System)
カメラを使って撮影した画像の天体位置は通常、ピクセル座標X,Yで表されます。
これを実際の天球面状での座標(赤経、赤緯など)へ変換するシステム全般のことをWCSと呼んでいます。
撮像された複数の天体の位置(X,Y)を、位置が既知の天体と比較することにより変換係数が決定されます。
実際には視野回転や光学系の収差をモデル化し、変換係数が決定されます。
本変換係数が決定してFITS画像のヘッダーに情報が加えられると、様々な天体画像表示ソフトウェア上で、
任意のピクセル(X,Y)での世界座標が計測できるようになるため、位置計測などでは必須の情報となります。
「Composite」による一次画像処理
画像の選択
「天体画像」、「フラット画像」、「天体用ダーク画像」、「フラット用ダーク画像」の
下の「参照」ボタンを押すことにより、PCに保存されているFITS画像を選択することができます。
ファイルを選択すると、一覧が表示され、その右側に「preview」ボタンが現れます。
このボタンをクリックすると、左側のJS9画面中にFITS画像が表示されます。
1枚ずつ画像を確認し、もし使用できない画像(追尾エラーで星像が伸びている等)がある場合は、
左側のチェックボタンを外すと、解析からは除外されます。
フラット用ダーク画像と天体用ダーク画像が共通の場合、「天体用ダークを共用」へチェックを入れます。
JS9上では、画像の明るさや拡大が自由に行えます(ZoomやScaleの項目)ので、丁寧に確認を行います。
ダーク画像などを選択しなかった場合、その処理はスキップされます。
すでに一次処理済みの画像へWCS解析などだけを行いたい場合は、ダークやフラットを空欄のまま、
天体画像にだけファイルを選択して解析を実行することができます。
画像処理手法の選択
画像処理手法
「コンポジット」と「個別画像処理」の2つが選択可能です。
「コンポジット」では、登録された画像を最終的にすべてコンポジットして1枚の画像を生成します。
「個別画像処理」ではコンポジットせず、登録された画像1枚ずつにダーク・フラット等の処理をして出力します。
コンポジット手法
σクリッピングの有無を選択できます。
宇宙線除去
メディアンフィルターを用いて宇宙線除去を行うか選択できます。
メディアンフィルターを適用した場合、若干の解像度低下がおこる場合があります。一方、下記に述べるWCS解析を
行う場合は、解析の特性上行った方が成功率が上がります。
回転補正
スペクトル画像が傾いている場合、ここで修正が可能です。JS9の「Regions」から「line」を選択すると、
画像上に直線が引け、傾きが測定可能です。このlineをマウスでダブルクリックすると、詳細情報が
表示され、角度が確認できます。lineがスペクトルとしっかり重なるようマウスで移動し、角度を調べます。
WCS解析
撮像画像に対してWCS解析(プレートソルビング)を実施します。
トグルをチェックすると、天体の座標、ピクセルスケールが入力できるようになりますので、
撮影した天体の座標を赤経赤緯(2000年分点)で入力します。天体名(半角英数のみ)を入力して「探索」
ボタンを押すと、データベースから座標位置を自動で入力できる場合もあります。日本語名や小惑星・彗星などの
移動天体の場合、データベースからは取得できませんので、手動で座標入力が必要です。
ピクセルスケールとは、画像1ピクセルあたりが何秒角に相当するかの値です。分からない場合は空欄でも
自動的に推定しますが、初期値があったほうが解析の成功率は上がります。
雲などで極端に写っている星の数が少ない場合や逆に天の川や球状星団などの込み入った領域の場合は、
解析がうまくいかない場合もあります。
解析がうまくいった場合、処理後の画像ファイル名末尾に「_wcs.fits」がつくようになります。
解析の実行
「アップロード && 処理開始」ボタンを押すと、FITS画像のサーバーへのアップロードおよび解析が始まります。
処理に使用した各種生成画像は、直下の「処理後FITS画像」へ順次表示されます。