ダークマター

星やガス雲や塵などの光る天体の運動が詳しく観測できるようになると,それらの天体以外に,何か重力が作用する物質が存在しているらしいことがわかってきた.この見えない物質はダークマター(暗黒物質)と呼ばれ,宇宙の光る天体全部を合わせた質量の10〜100倍も存在しているはずの正体不明の物質である.

例えば,渦巻き銀河の中の光り輝く星は,銀河の中心に集中して存在している.すると,外側になるほど星の回転速度は遅くなるはずである.ところが,銀河の中心からある程度までの距離の星々は,皆ほぼ一定の回転速度で回転していることが観測からわかったので,光る星の分布と矛盾している.回転速度の観測結果を説明するには,銀河の外側へいくほど,中心からの距離にほぼ比例して質量が大きくなっていなければならない.銀河には,光っている天体の分布よりもはるかに広がった質量が分布していると考えると,観測結果をうまく説明できる.

ダークマターが存在するとすれば,その正体は何なのだろう? 既知の物質から成る暗い天体を候補とする立場と,素粒子(WIMP,特にニュートリノなどの熱いダークマターや,冷たいダークマター)を候補とする立場があり,それぞれの候補に対して厳しい制限がついているが,まだ正体はわかっていない.

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参考文献

須藤靖, パリティ物理学コース「ダークマターと銀河宇宙」,丸善