アルゴ座の神話

ギリシャ神話でアルゴは“速い”という意味の巨船の名称である.物語は,コルキスという国に存在する金色の羊の毛皮を奪いにゆくイアソンたち50人の勇士のお話で,物語には星座でおなじみの勇士ヘラクレス(ヘルクレス座),名医アスクレピオス(へびつかい座),琴の名手オルフェウス(こと座),馬術の達人カストルと拳闘の名手ポリュデウケス(ポルックス)兄弟(ふたご座)などが登場,活躍している.

ギリシャのテッサリアにあるイオルコスの町の王アイソンは,義兄ペリアスの策略で王位を奪われてしまった.アイソンは息子イアソンを秘かに,テッサリアの山地に住むケンタウロス族の一人ケイロンに預けた.元来ケンタウロスは野蛮で乱暴な種族だが,ケイロンは賢明で正しく,医術をはじめ狩りや武術,音楽,予言の術に優れ数多くの英雄を育てあげた.

イアソンはケイロンのもとで成長し,叔父ペリアスに王位を返すように迫るが,ペリアスは王位を譲る条件としてイアソンに難題を言い渡す.それは,はるかポントスの海をわたった遠く,コルキスの国にあるという金色の毛皮を持つ羊を奪ってくるというものだ.イアソンはアルゴスという船大工にたのんで50の櫂をもつりっぱな船“アルゴ”を完成させた.この船は人類が最初に造った大船ともいわれ,その乗組員をアルゴノーティスといい,ギリシャ全土から集められた英雄豪傑たちで総勢50名とも55名ともいわれている.

アルゴ船はイオルコスの港パガサイから船出する.まず,エーゲ海にうかぶ女たちの島レムノスに寄港,1年を過ごし子供を得たのち,キュージコスの島に寄航,王の歓待を受けて出港するが逆風にあい,夜の間に吹き戻されて住民から海賊の来襲と間違えられて戦う.誤って王を殺してしまうのだが翌朝になってその誤りに気づきアルゴノーティスと住民たちは王の死を深く悼む.

次いで船はミューシアに着いて住民の歓迎を受けたのちベブリュクス人の住む地に向いその国の王アミュコスを破って,船はヘレスポントスの西岸ピーネウス王の国に仮泊する.王は海の神ポセイドンの子で盲目の予言者で,アルゴノーティスたちは食事のたびに王の前に現れて食物を荒す有翼の乙女ハルピュイアを追い払ったことから,航海の最大の難所であるシュンプレガデスの岩のことを教える.シュンプレガデスは両岸にそそり立つ大きな岩で,その間を船が通ると岩は両方から相打って船を破壊してしまうという恐ろしい場所だ.ピーネウス王は,アルゴ船が通過できるかどうかは,鳩を飛ばしてその鳩が通過できれば船は通れるだろうと教えたのだ.やがて,アルゴ船はシュンプレガレスにさしかかる.教えられた通り鳩を飛ばせると,2枚の大岩は相打つ.鳩は尾の先端の羽を少し取らるが無事に通過.アルゴノーティスの英雄たちは岩が開きかけたとき,満身の力を込めて櫓を漕ぎ.アルゴ船は船尾の先を岩にもぎ取られたが無事に通過することができた.この大岩は一度船が通ればその後は動くことが無いと運命づけられていたのでさしもの大岩も以後は静止して自由に船が通過できるようになった.

やがて,アルゴ船は黒海に入り,マリアンヂューノイ人の国の王リュコスに接見,しばらく滞在の後,テルモドン河口を通過し,パーシス河口のコルキスへと無事に到着する.イアソンはコルキスの王アイエテスに金の羊皮を求めるが,王はイアソンに難題を出す.それは,王がヘーパイストス神から贈られた,鼻から火を吹くという青銅の蹄を持った2頭の牡牛を゚につないで,竜の牙を土に播くことができればというもので,イアソンが困っていると,彼に好意を持つ女神ヘーラが,アイエテス王の娘メディアの心を変えてイアソンに恋するようにしむけた.メディアは魔力によってイアソンを援助しアイエテス王の難題をこなすのだが,王はイアソンの願いを聞き入れず,逆にアルゴ船を焼討ちし,アルゴナウテースたちを殺そうと計ったため,イアソンは再びメディアの力を借りて,夜の間に羊皮の番をしている竜を薬で眠らせ,金色の羊皮を手にいれるとすぐさま夜の闇に紛れてアルゴ船を出港させる.このことを知ったアイエテス王は烈火のごとく怒り,追っ手をさしむけるが,アルゴ船は快速で逃げきり,途中のいくつかの難題もこなし無事に故国イオルコスへ凱旋する.