これを受けて,美星天文台では,15日の夜にこの超新星のスペクトル観測(星の「虹」を撮影する観測)を行いました. 超新星は星の大爆発で,いくつかの種類がありますが,スペクトル観測を行うと,その種類を特定できます.早くこの種類が特定できればできるほど,その後の追跡観測に役立ちます.次の画像が得られたスペクトルです.
真ん中を左右に横切っている細くて白い線が,超新星の「虹」です. カラー写真ではないのでわかりにくいですが,左が青紫,真ん中は黄色からオレンジ色,右が赤に見える光です. 何本かの細い縦線は,主に街明かり(水銀灯)が空気中のチリに反射されて見えているものです. さて,この写真で白っぽく見えるほど,明るい,すなわち,光が強いわけですが,この超新星の虹をグラフに表したのが次の図です.
グラフで,横軸は光の波長(単位はオングストローム),縦軸はその波長での光の強さを表しています.グラフのところどころが下にくぼんでいますが,これは,爆発後に膨張している火の玉の表面近くにある元素が,その内側からでてくる光のうちの特定の色(波長)の光を吸収して暗くしていることを表しています.たとえば赤い光の6100オングストロームのところの深いくぼみは,ケイ素(Si)のイオンがこの光を吸収しているものと考えられています.ほかにも,イオウや鉄のイオンによる吸収が見えています.なお,この図では,じゃまな街明かりは取り除き,カメラの色感度の補正をし,さらに銀河の運動による波長のずれを補正してあります.
このスペクトルの形から,Ia型(いちえいがた)超新星という,超新星のなかでは最も明るい種類のものであることがわかりました.
Ia型超新星は,爆発後急速に明るくなり,約3週間後に最も明るくなって(極大)その後,暗くなっていきます. その過程で,スペクトルの形も少しずつ変わることが,これまでのIa型超新星の観測で知られています. 上のスペクトルの形を過去のIa型超新星のスペクトルと見比べることで,この超新星が最も明るく見える極大時より1週間ほど前であると推定できました. つまり,この超新星は,まさに明るくなりつつある,比較的早い時期に発見されたわけです. 一般に超新星は,極大時のころに発見されることが多く,明るくなりつつある時期の観測は少ないので,貴重な観測となりました.
ちなみに,こちらの超新星1995alはスペクトル観測時すでに極大をすぎていました.
Ia型であるとの美星天文台からの確認報告は,日本時間18日未明にIAUCに掲載され,全世界に配信されました.
15日に観測した頃は,14等の明るさでしたが,その後の内外のアマチュア天文家の観測によると,20日ごろで12等台まで明るくなったあと,だんだん明るさが横ばいになり,29日ごろにもっとも明るくなったようです.15日のスペクトルから極大1週間前と見積もったのは,若干はずれたようで,実際は極大2週間前だったようです.
さて,超新星爆発の火の玉が膨張するにつれて,スペクトルの形も変わってきます.次の図は,4月26日に撮影したスペクトルのグラフです.
4月15日のスペクトルと比べると,6100オングストロームのケイ素の吸収がより深くなり,逆に5750オングストロームのケイ素の吸収は浅くなっています.いくつもくぼみを持つイオウ,鉄の吸収の形も変化しています.典型的Ia型超新星の,極大時のスペクトルに似てきています.
Ia型超新星は,遠くの銀河の距離を測定する「ものさし」として利用され,ビッグバン以来膨張し続けているといわれる我々の宇宙の,膨張の様子,年齢,構造を調べる上で,重要な天体です.
(詳しい解説記事を準備中)
今回,Ia型超新星が早い段階から観測されていることは,我々の宇宙全体を知る上でも重要なことなのです.
明るく見える今のうちなら,晴れれば,101cm望遠鏡でこの超新星が見られます.