太陽系の果て

太陽の影響が及ぶ範囲の境界のこと.

カイパーベルト天体の発見など,最近の太陽系科学の進展によって,太陽系外延部を巡る考え方は大きく変化をしてきており,太陽系の果てについても不明瞭である.以下に記すことは,1999年2月末現在での見解である.

最近,冥王星を9番惑星とするか否かの議論などがマスコミで話題になった.1993年以降,冥王星軌道付近から外側に,数多くのカイパーベルト天体が発見されたこと,それらのカイパーベルト天体と冥王星を区分する根拠が乏しいことなどにより,冥王星にも小惑星の番号を付けてはどうか,という国際天文学連合(IAU)内での提案が,マスコミで誇張されて伝えられたものである.

事実,カイパーベルト天体の発見によって,冥王星が太陽系の果てであるとする考え方は,もはや遠い過去のものとなった.最近では,従来の惑星が巡る領域のことは"惑星圏",あるいは"惑星間空間"と呼ぶようになってきている.

そして,惑星などの天体を太陽系の境界目印とする従来の考え方に変わって,太陽の力学的・物理的影響が直接に及ぶ範囲を"太陽系"と呼んでいる.従って,太陽系の果ては,力学的には近隣の星との重力が釣り合う場所であり,物理的には,太陽から流れ出す太陽風が他の星との相互作用で止まるところ,あるいは太陽系の磁場の影響がなくなるところなどいうことになるかもしれない.

いずれにせよ,太陽系の果てのことはまだ良くわかっておらず,今後の研究が待たれるところであるし,また,その着眼点によって,果てが何種類もあるということになるであろう.

ところで,カイパーベルト天体は惑星のような軌道を回っているが,これは氷でできた彗星の親玉のような天体だと考えられている.また,小惑星でありながら,彗星のようにコマを持つカイロンや,やはり小惑星でありながら衛星を持つアイダのような天体が確認されたこと,更に1994年に起きた,木星衛星軌道に捕獲されていたSL9(シューメーカー・レビー第9)彗星が木星に衝突した現象などによって,惑星・衛星・彗星・小惑星の軌道や形態による天体の定義が揺らいできた.

昨今の観測技術の発達により,将来,冥王星をはるかに越えた空間で多くの太陽系天体が発見されたとき,その中には惑星に匹敵するような大きさの天体があるかもしれない.そして,その天体はおそらく惑星と同じような楕円軌道を巡っている.そうなると,これは10番目の惑星なのか,それともあくまでカイパーベルト天体とするのかは,もはや区分不可能である.

いずれにせよ,太陽系の惑星を9つまでに限定しておく理由は何もないし,冥王星の彼方には,従来予想されていたよりも豊かな太陽系天体の世界が広がっているらしいことも確かである.

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参考文献

向井正著『小惑星がやってくる』岩波科学ライブラリー 8, 1994年