彗星(ほうき星,コメット,comet)

太陽を楕円軌道,放物線軌道,または双曲線軌道でめぐる氷などの揮発性物質を主成分とする天体.

他の太陽系天体の軌道がほぼ円軌道であるのに対して,彗星の軌道は細長く伸びた楕円軌道や放物線軌道等と特殊であり,そのために彗星は日心距離が大きく変化をする天体で「彗星のように現れる」などと言われるような劇的な変化を起こす.彗星の本体は,直径数キロメートルから数十キロメートル程度の大きさの彗星核で,彗星核に含まれている氷などの揮発性成分は,彗星が太陽に接近してくるにつれて太陽放射によって蒸発(昇華)する.蒸発して放出されたガスや,そのガス圧で放出されるダスト(塵)は,彗星核周辺にコマと呼ばれる一時的な彗星の大気を形成する.コマが形成されると,光度が上昇して,彗星は地上から発見されるような天体になる.コマを形成したガスはやがて電離をしてイオンとなる.このイオンは,太陽風に伴う惑星間磁場が彗星の周囲に形成した磁力線に沿って反太陽方向に放出されて,イオンの尾(タイプI,あるいはプラズマ・テイルとも言う)を形成する.また,微小なダストほど太陽光圧によって反太陽方向に運動して,塵の尾(タイプII,あるいはダスト・テイルとも言う)が形成される.こうして彗星には二種類のが生じて,「ほうき星」と言われるような独特の変化に富んだ形状を現す.また,コマだけで尾の見られない彗星も数多いが,これは日心距離地心距離位相角といった彗星の位置関係に依存する.

彗星は,その軌道的特徴からは長周期彗星短周期彗星の二種類に分類される.その起源は,オールトの雲からやってきた新しい長周期彗星が,やがては短周期彗星に力学的進化をすると見られるが,近年のカイパーベルト天体の発見により詳細なシナリオが描き直されつつある.

彗星はその軌道ゆえに,太陽放射の影響を受けにくい遠い空間で多くの時間を過ごし(ケプラーの面積速度一定の法則を参照),太陽系形成期の始原性を保存していると考えられることから「太陽系の化石」とも呼ばれている.

彗星核から放出されて,その軌道上に分布するダストは,流星物質となって,その彗星を母天体とする流星群を形成する.

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