美星天文台での長期間の光害測定結果について
光害の測定
「光害」とは、不必要な人工光によってもたらされる様々な弊害の総称であり、特に天体観察などにおいては、大気中で散乱された街明かりなどによって、自然の状態の星空の背景が明るくなり、星が見えにくくなることをいいます。光害を防止するためには、照明の方向を適切に配置する(空に向けない)や、使わない時は消灯する、といった取り組みが大変重要になります。
井原市(旧美星町)では、全国に先駆けて「美しい星空を守る井原市光害防止条例」を制定し、様々な星空を守る活動を継続しています。美星天文台も1993年の開館から継続的に夜空の明るさを観測し、美星町の美しい星空が守られているか調査を続けてきました。光害の調査においては、どれだけ夜空が明るく照らされているか、という、いわば「量」の観測と、夜空がなにによって照らされているかという「質」の観測が重要になります。美星天文台101cm望遠鏡では、この量と質、両方を観測できる装置が備わっており、長期にわたって光害の調査が続けられてきました。
夜空の明るさ
夜空の明るさの測定は、101cm望遠鏡に取り付けられた天体観測用のCCDカメラを用いて行われました。このカメラでは、微弱な光の量を正確に測定でき、観測された星の明るさを元に、夜空の明るさを推定します。美星天文台で2008年から2021年までに測定された空の明るさは、星の明るさに換算すると20.3 +/- 0.5 [等級/平方秒角] であり、これは"天の川が見え始める明るさ”の目安とされる19 [等級/平方秒角]より暗い状態であることを示しています。また、2008年からの観測で、明るさに目立った変化はなく、暗い空が保たれていることがわかりました。
夜空を照らす光源
また、「分光器」と呼ばれる観測装置を用いて、夜空が一体なにで照らされているかの調査も行われました。分光器を用いると、普段見ている光を1000色以上に細かく分けて、その光がどの波長(=色)で強く光っているかを調べることができます。美星天文台の分光器を使って夜空の光がどんな色で強く光っているかを調べたところ、以前では蛍光灯を起源とする「輝線」と呼ばれる、ある特定の波長だけで強く光っている特徴が見られたのに対し、近年では、これら蛍光灯の輝線が弱まり、かわりにLEDランプを起源とする幅広い輝線が観測されるようになっていることが明らかになりました。これは、夜空を照らす光源が、徐々に蛍光灯からLEDへ交換されていったことを示しています。
美星町の夜空の分光結果。横軸が波長、縦軸が光の強度です。見えやすくするよう、年によってグラフを上下にずらして表示しています。左側グラフ、年が進むグラフ下側では、4500 A付近にLEDランプを起源とする幅広い輝線がみえています。一方、右側グラフの蛍光灯を起源とする細い輝線は、年が進むにつれ弱まっていく傾向が見えます。
まとめ
美星天文台で2006年から2023年にかけて実施された光害調査の結果、夜空の明るさはほとんど変化していないが、照らす光源が蛍光灯からLEDに変化している様子が示されました。光害の量だけでなく、質に着目した調査は事例が少なく、近年の照明機器の変化を捉える貴重な資料となります。これらの研究結果は科学論文誌「Stars and Galaxies」から公表されています(論文のプレプリントはこちらからもダウンロードできます)。