美星発!ブレーザー天体カタログについて

美星天文台では夜間公開終了後に、天文台職員による研究観測も実施しています。ここでは普段、天文台ではどのような研究が行われているのか、その一部をご紹介したいと思います。

「ブレーザー天体」とは、中心に非常に重たいブラックホールを持ち、活動的な性質を示す銀河の中心核(活動銀河核、AGN)のうち、その中心核から「ジェット」と呼ばれる、ほぼ光速のプラズマ流が噴出している天体の総称です。ブラックホールは物質を吸い込む天体という考えが一般的ですが、中にはブレーザー天体のように物質を物凄い速さ(秒速30万km程度)まで加速して噴出する天体もあります。ブレーザー天体は、宇宙空間で観測されている起源不明の高エネルギー粒子(=超高速物質)の源ではないかと考えられている天体の一つですが、実際にブラックホール近傍でどのように物質が加速されているかは、よくわかっていません。

Image Credit: IPAC-Caltech
ブレーザー天体の想像図 (Image Credit: IPAC-Caltech)

2020年9月16日、アメリカの科学誌「The Astrophysical Journal」から一編の論文が出版されました。論文は美星天文台の職員と、スタンフォード大学、京都大学、広島大学などの研究者からなるグループの研究成果で、それは8万個以上の「ブレーザー天体」と呼ばれる種族の天体の詳細な場所や性質をまとめたカタログについての成果となっています。

近年、世界中の科学者が協力して、このブレーザー天体の正体を探る研究を行っていますが、美星天文台でもこれらの天体について観測研究を行っています。研究では、過去の観測からブレーザー天体であると考えられている天体をひとまとめにした「カタログ」と呼ばれるリストを元に、観測が行われてきました。しかし、これまで使われてきたカタログには様々な課題があり、またカタログに登録されている天体数も1万個程度でした。そこで、我々の研究グループでは、インドとアメリカの電波望遠鏡で観測された約50万個の天体から、88,211個のブレーザー天体の候補を選び、新たなカタログを作成しました。下の図は、全ブレーザー天体の天球面上での分布を示したものとなります。

カタログに含まれる88,211天体の、天球面上(銀河系座標)での分布。銀河面と南天の天体は除く( Itoh et al 2020, The Astrophysical Journal, Volume 901, Issue 1, id.3, 12 pp.)。

この新しいカタログにより、よりたくさんのブレーザー天体の観測が可能となりました。今後、美星天文台での研究観測はもちろん、世界中の望遠鏡での観測に本カタログが利用されます。今後のさらなる研究にどうぞご期待ください。

本論文は、こちらからもご確認できます。また、カタログはこちらからダウンロードできます。いずれも研究者向けの英語ページとなっております。